松本清張の登場

人間は推理する葦である

 名探偵がパズルを解くように事件を解決していった戦前の推理小説は、戦後、松本清張の登場によって大きく変わって行った。

トリックや意外性、探偵のキャラクターをフィーチャーしていたこれまでの推理小説とは趣を異にする、市井の人々(名探偵ではない刑事や警察官など)が、人の心の歪み、社会の歪みの中に犯行の動機を発見し推理してゆく社会派ミステリーが生まれ、その旗手として登場してきたのが松本清張であった。

昭和33(1958)年に出版された清張初となる長篇ミステリー「点と線」は、時代の先端を行く寝台特急「あさかぜ」を登場させ、トリックを巧みに使った推理小説として大きな反響を呼んだが、同年出版された彼の作品「眼と壁」は、事件を推理していく中で、社会の歪みの中から犯罪が生まれてきたことを突きとめていく新しいミステリーとして、社会派ミステリーとして人々の注目を集めた。そして松本清張以降、こうした社会性を強く帯びたミステリーがどんどん登場してきたことで、ミステリーは市民権を得て、読者を広く獲得していくことになった。(anjinho)

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