最近ビール会社のTVCMで、女性がビールを飲むシチュエーションがよく出て来るが、これは必ずしも世の中の風潮がそうなっているからではない筈だ。TVCMを以前作っていたこともある我が身を振り返ると、TVCMというのはメーカーの願望の映像である。男性のビール人口が横ばい、増加を見込めない、ならば女性のビール人口を増やしたい。そのためには、今の若い女性たちがすすんでビールを飲んでいるように見えるシチュエーションを見せて、さあ、視聴者の若い女性の皆さん、あなたもこういった世の流れに乗って下さい、と訴えるようなCMを作ろう、というのが恐らく制作者側の意図なのだろう。そして、このTVCMが繰り返し繰り返し流されていくことで、女性たちの意識がCM制作者側の意図する方向に変化して行き、やがてこれが現実となって行く可能性が出て来る。最近TVCMを見ていると、ふと思う事がある。広告と情報の違いっていったい何なのだろう。それは広告制作者だけでなく報道の現場にいる人間にとっても、永遠に逃れられない命題である筈だ。台湾の「独立」を許さないと事あるたびに主張する中国だが、台湾が現在の中華人民共和国の一部であった事実はないにもかかわらず、「独立」とそう主張し続け、メディアがそのまま報道し続けることで、その概念はいつか人々の心に刷り込まれていくかもしれない。まるでビールを飲みましょうと言われている、若い女性のように。(蔦文蔵)
広告と情報の狭間

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