レコードに針を落とすとき

蔦文蔵's EYE

 近年、LPレコードの人気がうなぎ上りだ。CDが登場する以前は、私もレコードを聞いていて、学生時代は200枚近くコレクションしていた。ロックとジャズが主だったが、ジャケットに描かれている絵やイラストなどに惹かれ、いわゆるジャケット買いをしたレコードも沢山あったように思う。現在のLPレコードの人気は、音楽と相まってそのジャケットの個性的なビジュアルも一役買っているのだろう。

LPレコードを扱う店はどんどん増えているようで、ロック、ジャズ、ワールドミュージック…、音楽のジャンルごとに専門化、細分化されて、コアな音楽ファンたちを惹きつけている。そして、それらの店を見ていて感じるのは、骨董商や古書店に近い匂いだ。もはや生産されていない、入手困難な希少なレコードを探しに海外へ出かけて行き買い付け、相場を考えて自分で値付けしてゆく。骨董商が希少品を探し出し、そこに価値を見出し値付けするように、古書店が希少な本を探し出し値付けしてゆくように、レコード屋も、自らハンターのように出かけて自らにとっての宝物を探し出していく。かつて一般のレコード店が自分でレコードを探し出すのではなく、レコード会社からディストリビューターを経て、自動的にそして定期的に商品であるレコードを仕入れていた時代とは大違いだ。

音楽マーケットは時代と共にどんどん成熟し、音楽ファンもまた成熟し変わって行った。インディーズ・ブームを経た音楽シーン、音楽ファンは押しつけられた音楽でなく、面白そうな音楽を自らの手で探し出すようになった、そんな今の時代の象徴ともいえるのが、現在のレコード店ブームではないだろうか。デジタル製品が身近にあふれて便利さで人々を魅了する一方で、反デジタルともいえるアナログなもの、時代を反映した個性的なジャケットの絵、針を落として聴く音楽との出会い方など、人間のぬくもりを感じさせるものへの憧れも、同時にまた強くなっているのかもしれない。

本の世界に目を転じると、デジタル時代の象徴ともいえる電子書籍がどんどん読まれるようになる一方で、紙の本へのこだわりもまた強くなっているような気がする。人は、新しいもの、古いもの、どちらにも惹かれながら(個人差はあるが)、生きていくのかもしれない。(蔦文蔵)

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