くわえ煙草の効能

蔦文蔵's EYE

 くわえ煙草の名刑事というと、まず思い浮かぶのが刑事コロンボ。正確には葉巻だが、葉巻をくわえながら事件現場に現れるその姿に、名推理を期待してワクワクしたファンも多い筈だ。そして、もう一人、こちらは、つかこうへいの代表作「熱海殺人事件」に登場する刑事、くわえ煙草の伝兵衛こと木村伝兵衛部長刑事。つかこうへいが、「昭和の名刑事」と称された、三億円事件を担当した警視庁の平塚八兵衛刑事から着想を得た刑事だ。この二人の捜査方法は対照的だ。コロンボの特徴はその鋭い観察力と直感、それらを駆使して推理を綿密に組み立てていき、犯行動機や犯人を明らかにしてゆく。一方、熱海殺人事件のくわえ煙草の木村伝兵衛刑事は、自ら、犯人の犯行動機を作り上げることにひたすら情熱を傾ける、そう、まるで推理小説を書いている推理作家のような刑事だ。そして、コロンボのその際立った観察力による的確で見事な推理は、安易でお手軽な推理に基づいて解決される、TVで量産されている凡百の刑事ドラマを陳腐に見せ、また熱海殺人事件のくわえ煙草の木村伝兵衛刑事は、自らお定まりの陳腐な刑事ドラマのストーリーを組み立ててみせてゆくことで、凡百の刑事ドラマの背後にある作り手の安易な先入観、安易な設定を浮き彫りにして見せてくれる。この二人の刑事は、まさに磁石のS極とN極のような両極端の設定だが、どちらも私たちに凡百の刑事ドラマがなぜ陳腐でつまらないのかという理由を明らかにしてくれる。(蔦文蔵)

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